多くのスーパーは、薄利多売という商売スタイルを取っています。
ひとつの商品から生み出される利益は薄いため、商品をいくら売ってもたいした利益にはなりません。
そこで利益を生み出すよりも経費を削って、会計をどうにか黒字にもっていこうと経営陣は考えています。
会社の経費として大きな負担がかかっているのは、ずばり人件費です。
ですから人件費を削れば、少ない利益でも黒字を出すことができるようになります。
ただし人件費を削ることにはリスクがあるため、ふつうは人件費に手を付けることはありません。
安易に人件費削減をしてしまったら、内部崩壊してしまう危険性があるからです。
管理人が勤める会社は、禁断ともいえる人件費削減に手を付け、結果として失敗に終わりました。
売上も利益も落ちてしまい、どん底まで落ちてしまったのです。
人件費削減として、具体的にどのような施策をしてきたのかについて今回は記していきます。
失敗例として、全国の関係者はぜひ参考にしてください。
高齢者の雇い止め
スーパー業界では中・高齢者が多く働いており、彼らは貴重な戦力となっています。
人手不足が深刻な状況でも、一生懸命働いてくれる中・高齢者はとても大切な存在です。
これからは高齢者が活躍する時代なのに…しかし経営方針が変わり、高齢者を一斉に雇い止めにすることになったのです。
急な話に、納得がいかない高齢者たち。
まだまだ働きたいという高齢者の気持ちを無視して、会社は「年齢による作業能率の低下を懸念、また体力面での不安があるため」という建前で、事実上のリストラを決行 しました。高齢者の雇い止め(という名のリストラ)によって、会社全体の1/3ほどの人員が削減となったわけですが、これはまだ序章にすぎません。
会社は、リストラ後にさまざまな施策を強行していきます。
多能工化の推進
高齢者のリストラによって、残った人員に多大な負担がのしかかります。
そこで会社はひとりが複数の業務をこなす、いわゆる多能工化の推進をするようになりました。
というより、むしろ多能工化しなければとても店を回すことができないほど、深刻な人手不足におちいってしまったのです。
たとえば「品出し担当だけど、レジ応援がかかったらレジに入る」というのも、立派な多能工です。
このように ひとりが複数の業務をこなせば、少ない人数で店を回していける、と会社は考えたのですが…実際はうまくいきませんでした 。
うちの会社で多能工化がうまくいかなかった理由は、3つあります。
- 積極的に多能工化に応じる人と、拒否する人・できない人で真っ二つにわかれた
- 複数の業務が負担となり、それぞれの業務を適当にするようになった
- 多能工化しても、給与があがらなかった
まず、いくら会社が多能工化を推めても従業員みんなが多能工化に応じることはなく、拒否する人もいました。
パート主婦
この歳で、今から新しいことを覚えるのはキツいわぁ。
また短時間の勤務ゆえ、複数の業務をこなす時間的な余裕がないという人も…。
学生バイトたち
たった4時間の勤務だし、そもそも別の部門に応援に行く暇なんてないから。
会社の経営陣は現場をろくに知らずに施策を決めますが、現実には無理なんですよね。
そして多能工化した人は、あまりの負担に耐えかね、適当に業務をこなすようになってしまいました。
男性社員
時間は限られてるのに、あれもこれもできるかよ…。適当にやっときゃいいだろ。しかも、給料も上げてくれないし。バカらし。
せっかく頑張っても、給与が上がらなければやる気もなくなるのは当然です。
小規模店舗は部門担当者の配属を廃止
高齢者をリストラしたことによって、店舗を円滑に運営することも難しくなってしまいました。
バイトやパートが、社員並みの仕事をすることにそこで小規模店舗は、部門担当者の配属を廃止することに。
基本的に、スーパーでは各店の各部門に正社員の担当者が配属され、そのなかの一人がチーフとなり、責任を持って業務に取り組むことになります。
そのため店に正社員がいるのといないのでは、パートやバイトの負担が大きく異なるわけです。
たとえば、 今まで部門担当者がしていた発注などの仕事も、できるかぎり店に残ったパートやバイトが代わりにすることになりました 。
パート主婦
パートの身分で、正社員と同じ仕事を求められるのは困るのよね。それに、何かあったときの責任問題が一番心配。
どうしてもできないようであれば、他の店から応援社員が来てもらう形になりますが、そうなると応援に行かされる社員への負担がかかってしまいます。
そして応援ばかり行かされる社員は責任感も喪失し、適当な仕事をするようになります。
男性社員
その店がどうなろうと自分が責任を負うわけじゃないから、適当に仕事してたって問題ないでしょ。こっちはただの応援で来てるだけだからさ。
また 応援を出す店も余裕がなくなり、店がうまく回らなくなる、という悪循環におちいってしまいました 。
従業員の絶対数が足りないのにすべての店をうまく回そうだなんて、とても無理な話なんですよ。
小規模店舗の商品は他店舗で製造
部門担当者すらいなくなった店は、もうまともな業務をこなすこともできません。
生鮮部門は商品の製造が重要ですが、とてもそこまで手が回らないのです。
そこで、人手が少ない小規模店舗では、他の店に商品を製造してもらうことになりました。
他の店に商品を製造してもらうことで、人手が減少した店にいる従業員への負担は軽くなりました 。パート主婦
店に届いた商品を品出しするだけだったら、自分の作業の片手間でもなんとか手伝えるわ。
いっぽう お客さまにとっては買いたいときにお目当ての品物がないなど、不便さを感じることが多くなっていきました 。
お客さま
肝心なときにほしい商品はないし、商品のことを聞きたくても担当者もいないだなんて…。今度から他の店で買い物しようっと。
店に担当者がいないがゆえにお客さまへの対応もできず、結果として客数の減少を招いてしまったのです。
小規模店舗の発注頻度を減らす
小規模店舗は従業員が少なくなったため、発注の頻度を減らすことになりました。
店長
発注頻度を減らしたといっても食品や菓子など、一部の商品だけだよ。さすがに、生鮮や日配品は毎日発注しなきゃ、品切れだらけになっちゃうからね…。
なぜ発注頻度を減らすのか?というと、以下の理由があげられます。
- 毎日、発注業務に時間を割くことができないため
- 商品の納品日を減らすことによって、品出し業務の負担を減らす
まず発注は商品の在庫数や前年比の売上といったデータをもとに、なるべくちょうど売り切れる数を予測して行わなければなりません。
なぜなら発注数が多すぎたり、少なすぎたりするとチャンスロスや廃棄ロスの原因となってしまいますから、発注数はよく考えなければならないのです。
つまり発注とはとても神経をすり減らす作業で、どうしても時間がかかってしまうわけです。
発注精度の良し悪しが、売上や粗利率に影響するところが人手を減らした以上、発注作業だけに大きく時間を割くことはできなくなりました。
そのため発注の頻度を減らすことで、今まで発注に割いていた時間を他の作業にあてることができるようにしました。
発注の頻度が減れば、商品が納品される日も同時に減るので、結果的に従業員の負担が減ることにつながった のです。管理人
うちの店では、毎日行っていた食品・菓子の発注を二日に一度に減らしました。
商品が納品される日には、品出しの応援に入っているよ。毎日はキツいけど、二日に一度ならまぁ、なんとかやっていけるかな…。
男性社員
本社の人間が店舗応援に入る
いくら多能工化しても、発注頻度を減らしても、店の従業員だけではもう手いっぱいな状況。
会社が次に考えた施策は、本社の人間が店舗の応援に入ることでした。
しかも店舗運営とは関わりのない商品部のバイヤーや人事部長、はてには営業部長、さらには社長までもが本部からの応援として毎日、それぞれ割り振られた担当の店に行くのです。
当然、それぞれが持つ業務と平行しながらの応援業務ですから、店舗応援を重ねるごとに本来の業務が滞るようになってきます。
ここでついに、 人員削減によるしわ寄せが店舗の従業員のみならず、本部の人間にまで押し寄せてきてしまいました 。
小規模店舗の店長は複数店舗を兼任
わざわざ本部からの応援まで来てもらわなければならないほど、店舗の運営が深刻な状況となってしまいました。
ここまで深刻な状況におちいってしまったのは、小規模店舗の店長は複数店舗を兼任させられているということも一因となっています。
店長
ひとつの店を見るだけでも大変なのに、複数の店なんてキャパオーバーだよ!
これではとてもじゃありませんが、個々の店をしっかり管理できるはずがありません。
そして 店長という大切な店の管理者がしょっちゅう不在であることから、従業員が不満を抱くようになっていきました 。
たとえばクレームなど有事のさいに店長がいなければ、誰かが代わりにその責任を負わなければなりません。
このためパートもバイトも立場は関係なく、すべての従業員が自分の仕事に責任を持つことになります。
とはいえ、たかがバイトやパートにそこまで求められても困る、という考えの人もいるわけです。
パート主婦
お客さまからのクレーム対応まで、パートがやらなきゃならないなんて…。安い時給で、そこまで責任負えないわよ。
学生バイトたち
ただのおこづかい稼ぎでやってるだけなのに、なんか面倒くさいことになってきた…。辞めたい。
そして パートやバイトでも責任を持って仕事をする派と、パートやバイトに責任を求められても困る派で対立が始まりました 。
パート主婦を副店長に
店長が複数店舗を兼任し不在がちであることから、会社は各店舗のベテランパート主婦を副店長に任命していきました。
パートが副店長や店長になるのは珍しくないベテランパート主婦といえば聞こえがいいですが、率直に言うとお局さまですね。
お局さまは勤続年数が長くヘタな社員よりも影響力があるため、絶対的な存在といっても過言ではありません。
良くも悪くも発言力や行動力があるお局さまは、店長の代わりに責任を負う存在として最適 だといえるでしょう。しかし お局さまが副店長になったからといって、店の従業員が一致団結するわけではありません 。
一致団結どころか副店長であるお局さまに対して、反抗心を持つようになってしまいました。
なぜなら副店長ということで店長などの上役に媚び、自分の思うがままに店を支配し始めたからです。
管理人
現に、うちの店ではすっかり店長が副店長に取り込まれてしまいました。お局さま、恐るべし…。
副店長という権力を手にしたお局さまは、他のパートに対して風あたりを強くしたり、えこひいきしたりと、好き勝手し放題よ。
パート主婦
こうして 店長は副店長であるお局さまを過信し、お局さまのいうことには文句の一つも言わなくなりました 。
ここまでくると業務が回らないということも、お局さまによる店の私物化のほうが大きな問題となってきました。
管理人
自分は仕事もろくにしないのに、他の人には責任を求めて命令ばかり。暇さえあれば、店長も交えてくだらない話してるし。
店が危機的な状況だからこそ、みなが協力し合っていかなければならないはずなのに…。
こんな店長と副店長では、まったくもって話になりません。
まさに、内部崩壊する寸前です。
高齢者のリストラが、まさか取り返しのつかないほど状況を悪化させることになるとは…。
誰も予想だにしていなかったことだと思います。
しかし人件費を削減すること自体は、けして悪いことではありません。
問題は、人件費を削減したあと、どうするのか・どうすべきなのかを経営陣がしっかりシミュレーションしておかなかったことにつきます。
管理人
うちの会社はいつも行き当たりばったりで、「思いついたらとりあえずやってみよう」という軽いノリでなんでもやってしまうのです。
ゆるい会社だなぁと前から思ってはいましたが、ここまでずさんだったとは正直ショックです。
そして、こんな状況に耐えきれなくなった人がどんどん辞めていってしまいました。
まだまだ働き盛りの社員や、貴重な戦力であるパートも少なくなり、会社はもうお手上げ状態です。
しかも新しい従業員が入ったところで、劣悪な環境に嫌気がさしてすぐ辞めていってしまい…。
いったいどうしたら負の連鎖から抜け出せるのか、今日も悩み続けています。
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